59 ⑩「予防医学への足がかり」 Ⅵ−2 眼や眼鏡に関する矛盾点と盲点

4.斜位に関する矛盾点と誤解

(1)瞳孔中心間距離(PD)とレンズ光学中心間距離(OD)に関して

眼鏡作製上、非常に重要だとされていることに、「瞳孔中心間距離とレンズ光学中心間距離を等しくしなくてはいけない」とする作製基準がある。

 レンズの光学中心を通る光線は直進するが、光学中心から離れた位置に入射した光は屈折する。(光線の進行方向が変わる) 屈折量は光学中心から離れるに従って大きくなる、この現象をレンズのプリズム作用という。

 眼鏡の作製基準通りに出来ていない "間違い" 眼鏡は、瞳孔とレンズ中心の位置が合致していないものになっているので、左右の眼の網膜に結ぶ焦点の位置にずれが生じるのでモノが二つ見えるような現象が起きる。

もしも人の眼にこのズレに対応する能力がなければ間違い眼鏡のために一つのものが二つに見える複視が生じるのである。 しかし、我々の眼にはプリズム作用で屈折された光の方向に視軸を合わせるように眼球を向けて複視を避ける輻輳、開散と呼ばれる能力が備わっている。

眼の中心窩に像を正しく結ばせるために、そのような眼の回旋運動を行いながら両眼視をしているのである。 正しい両眼視のためには、固視点と両眼の中心窩が一致してなくてはならないので、間違い眼鏡のために強いられる眼の回旋運動は眼筋に無理な緊張状態を作りだし、人工的な斜位を生じさせることになる。この眼鏡作製基準は人工斜位による疲労症状を防ぐためにあると解釈される。

この様な間違い眼鏡が原因のものを症候性眼精疲労と呼ばれることもある。

 一方、斜位のある眼には、瞳孔の位置に対してレンズの光学中心を意識的にずらしてプリズム補正しなければならない。(プレンティスの公式により偏心によりプリズム度が決まる)

表6からわかるように、51.4%の人に斜位があるにもかかわらず、眼鏡処方箋の大部分は瞳孔中心間距離とレンズ光学中心間距離とを一致させている。

斜位の測定もせずに眼鏡作製の際、瞳孔中心間距離とレンズ光学中心間距離の一致を力説する、

人工斜位による眼精疲労を予防するための理論があっても、生れつきの斜位は見落とされ、それから生じる眼精疲労が問題にならないのは大変な矛盾であり、片手落ちな事である。

(2)内斜位と外斜位に関して

 よく、「近視は外斜位になりやすく、遠視は内斜位になりやすい」と言われる。 この理由を眼の調節と輻輳の理論によって説明されることが多い。 しかし実際に斜位測定を行ってみると、図27で示すように、近視性斜位の65.8%が外斜位であり、内斜位は、16.5%である。

図28で示すように、遠視性斜位の69.5%が外斜位であり内斜位は 15.9%である。 このように、近視性、遠視性の区別に関わらず外斜位の方が断然多いのである。 理論が必ずしも実際に側していない例を示したのであるが、外斜位と内斜位に関しても、理論だけでは不十分である。 その理論を裏付ける確証がないまま定説化しつつあるのは大変危険なことである。

 

図27より

近視の斜位別構成比率  近視性斜位302人

斜位                   199人(65.8%)

斜位+上下斜位   27人(8.9%)

斜位                     50人(16.5%)

斜位+上下斜位   15人(0.5%)

上下斜位                  25人(8.3%)

図28より

遠視の斜位別構成比率 遠視生斜位189人

斜位                   131人(69.5%)

斜位+上下斜位   11人(5.8%)

斜位                     30人(15.9%)

斜位+上下斜位     2人(1.0%)

上下斜位                  15人(7.8%)

 

近視性斜位度数分布

図29より

近視性外斜位度数分布(225人)

プリズムD

P1〜P3          103人(45.8%)          

P3.1〜P6        69人(30.7%)

P6.1〜P8        30人(13.3%)

P8.1〜              23人 (10.2%)

近視性内斜位度数分布(52人)

プリズムD

P0.5〜P3        36人(69.3%)

P3.1〜P6        11人(21.2%)

P6.1〜P8          2人(3.9%)

P8.1〜                3人(5.6%)

近視性上下斜位度数分布(54人)*内29人は外斜位或いは内斜位を併有している

プリズムD

P0.5〜P3        40人(74.0%)

P3.1〜P6        11人(20.4%)

P6.1〜P8          3人(5.6%)

P8.1〜                0人(0%) 

 

遠視性斜位度数分布

図30より

遠視性外斜位度数分布(142人)

プリズムD

P1〜P3            57人(40.1%)

P3.1〜P6        61人(42.9%)

P6.1〜P8        17人(12.0%)

P8.1〜                7人(5.0%)

遠視性内斜位度数分布(32人)

プリズムD

P0.5〜P3        26人(81.3%)

P3.1〜P6          4人(12.5%)

P6.1〜P8          2人(6.2%)

P8.1〜                0人(0%) 

遠視性上下斜位度数分布(28人)*内13人は外斜位或いは内斜位を併有している

プリズムD

P0.5〜P3        24人(85.7%)

P3.1〜P6          4人(14.3%)

P6.1〜P8          0人(0%)

P8.1〜                0人(0%)

 

58 ⑧ 「予防医学への足がかり」Ⅴ 眼因性疲労に関する生理学的考察

Ⅴ.眼因性疲労に関する簡単な生理学的考察

 眼と健康に関する事実を踏まえた上で、眼因性疲労に関する生理学的な考察を試みてみたい。

1.眼と自律神経

 身体のあらゆる器官が自律神経の支配を受けているように、眼もその支配を受けている。

水晶体を厚くしたり薄くしたりして焦点距離を調節するのも、紅彩を広げたり狭めたりして眼球に入る光量を加減するのも、眼球を動かして見たいものへ視線を合わせる眼球運動も総て、広義の自律神経の働きによるのである。

このような眼の自律的な調節系の巧妙複雑さは、他のいかなる器官もその比ではない、その働きを見ればあたかも眼が独自にモノを見ている様に見間違うほどである。

 脳が受けとる情報のうち、眼から入る情報量が最も多くて毎秒4x1000000ビット、次いで耳からの情報量は毎秒8x1000ビット程度と言われる。

このことから、眼は脳への情報提供器官として最も重要な役割を果たしている事がわかる。

脳へ正しい情報を伝えるために眼球は巧妙な眼球運動を行っている、その運動のために働くのも自律神経と考えることが出来る。

主な眼球運動は、両眼でモノを単一視するために外眼筋が行う眼球運動(輻輳)と、読書の際近くの文字をハッキリ読むために水晶体の厚みをコントロールする毛様体筋が行う(調節)等である。

眼球運動である調節と輻輳の間にはある一定のルールがある。

ある距離のものを見るときにはその距離に応じた輻輳量(視線のうち寄せ量)とそれに見合う調節量という関係があるが、屈折異常である遠視、近視、乱視や眼位異常である斜位などがあれば、このルールは壊されてしまう事になる。

このルールに当てはまらないからといって複視したり、混乱視するという事は滅多に起こるものではない。自律神経は絶えずそのルールの乱れを調整し、不自由なくものが見えるように働いている。眼と脳の連係プレーである

 遠視のボヤケに対してはそれを回避するように絶え間なく調節が働くが、近視にはボヤケを回避する能力や仕組みが具わっていない。

斜位とは視線のズレを自己の眼の能力で修整可能な眼であるから、本来は左右別の方向を向いてしまう眼であっても、直ちに自律神経の援助が差し向けられ眼筋が視線のズレを修整をする。

このように、遠視眼のボヤケや、斜位の複視に繋がるエラーは自律的な調節や融像機能が無意識のうちに働くので自覚症状としての視力の低下や複視は生じない。

言い換えれば、遠視眼に対する調節や斜位眼に対する輻輳は、自覚的には潜伏していて感じられないのが実態である。

従って調節を容易に働かせ網膜への焦点の修整が可能な弱度の遠視などは視力的には正視と間違えられることすら起きる。

斜位は外見上「やぶにらみ」(斜視)にはならないので、本人も周囲の人も眼の異常を気付かないのが普通である。私達の調査では51.4%の人が斜位であるのに、斜位を自覚していた人は皆無であった。

   眼が生きている以上、自律神経の働きを受けるのは当然であるが、遠視、乱視、老視、斜位の場合、不自然で無理な眼の運動が持続的に強いられると、そのため自律神経の疲れが生じると考えられる。

それが自律神経の平衡失調となり、ホメオスタシス(恒常性)の維持能力を低下させ、健康を損なうことになると考えられる。

純粋な近視を除く総ての屈折異常と斜位から生じる疲労は、自律神経を通して全身に及ぶ。

それが眼因性疲労である。

2.「内外ストレス作因」と体質

 遠視、乱視、斜位などの疲労を引き起こす眼を持つ人は自律神経の余分な緊張を背負って生活していることになる。

そして、そのような人達の約87%が不定愁訴を有している事実。

さらに、これらの異常な眼を眼鏡で正しく補正し過度の緊張を取り除けば、大部分の人は不定愁訴が消滅するか大幅軽減するという驚異的な事実がある。

 これらの事実から、眼から自律神経に与える連続的な緊張は、セリエの「ストレス学説」における外的ストレス作因に対して、「内的ストレス作因」だという仮説を提案する。

内的ストレス作因は、体質を決定づけるものであり、内的ストレス作因の有無、強弱によって病気になりやすい体質、なりにくい体質が出来ると考えることが出来る。

よって、

① 眼の異常は内的ストレス作因であり、それは体質を決定する。

② 内的ストレス作因が強く続けば病気が発生する。

③ 外的ストレス作因は病気の引き金になる場合もある。

という論理が成り立つのである。

3.予防医学の原点

 病気の原因については「自律神経から」とか「ストレスから」とか言われる。

眼因性疲労は、自律神経失調症とも内的ストレス作因とも関連づけることが出来る。

そうすると、眼因性疲労は病気の根源としての要因を持っていると考えることが出来る。

また、発生学的に見ると眼は脳から分かれたものであり、脳の一部として重要な意味を持つ。

 ※ 「生命の始まり」、発生の早期28日の胎児の頭部を見る。

「眼球内膜は将来間脳になるべき間脳胞の腹外側壁から膨れ出した眼胞に由来するものである。眼胞を通る横断面によると、中脳胞の神経上皮及び間脳胞の神経上皮と眼胞の神経上皮の間には形態上の区別は認められない、つまりこの時期は間脳胞と中脳胞と眼胞は一体である、眼は脳の一部である」と視覚器の発生の項に明記してある。(眼科学体系・眼の発生と遺伝より)

眼球内膜とは将来網膜になるところであり、間脳は自律神経中枢として知られている、中脳は動眼神経(第三脳神経)中枢である。

 眼は生まれながら脳の一部である。

そして、生命の最期における脳死判定」では、7項目の脳幹反射の判定項目中5項目が眼に対する刺激的反応及び所見に依っている。

眼の存在は生命の発生の段階と命の最後において主役を演じているようにも見える。

   正に眼は生命の窓である、「病気は自律神経失調から」とする論理を「病気は眼因性疲労から」とする論理に結び付ければ、その他の論理はすでに現代医学で出来ているように思われる。

眼因性疲労を取り除く事が予防医学への大きな足がかりになると言えば言い過ぎであろうか。

 

 

 

 

57 ⑦ 「予防医学への足がかり」Ⅳ 調査報告 屈折異常や斜位と健康との関係

(Ⅳ)調査報告:屈折異常や斜位と健康との関係

1.調査の目的

 眼と身体の健康問題には重大な関係がある、という事については経験的には以前から判っていたことである。

眼と健康に関する現象的な経験論を耳にすることもない訳ではない。

しかし、明確な定量的分析のされた研究内容を見たことがない。

眼と健康で扱う眼、それは屈折異常、調節異常、眼位異常という視機能に関係する問題である。

よって、その関連を明確に把握し統計的分析によって、関連の規則性を見出だすことを目的とする。

2.調査の対象

 昭和49年度に私達が眼鏡を通じて接した「象牙堂めがね店」のお客様をはじめ、調査に協力してくれた人々(任意の588人)について「 屈折異常や眼位異常と健康 」の立場から調査をした。

調査対象が眼鏡店のお客様であるから、どうしても遠方視力の悪い近視性の眼の人が多くなりがちであり、広く一般の人々を対象にしたのとは異なり対象に片よりが生じがちである。

そのような偏向性を極力避けるために、サングラス購入目的のお客様、子供に付き添ってきた親御さん、老眼鏡のみを購入希望の方、遠方視力に不便を感じていない所謂  "眼鏡に無縁" なお客様等も対象にした。

このように眼鏡の必要性を感じていない人々も調査の対象とし、視力の良し悪しとは無関係に調査をしたのである。

3.調査の方法

(1)代表的な不定愁訴を記入した調査用紙によって、それらの不定愁訴の有無を答えてもらった。

(2)それから対象者の屈折異常や斜位を測定した。

(3)測定値に基づくレンズの眼鏡を作製し、その後の愁訴の変化を調査した。

以上の結果をすべて記入したデータを考察材料としたのである。

 ここで言う不定愁訴とは慢性的愁訴すべてである、例えば、神経痛、ムチウチ症など何らかの外因が引き金となって生じた愁訴であっても、それが「慢性的な持病」であれば不定愁訴と見なしている。

    ※ 不定愁訴:明白な器質的疾患が見られないのに、様々な自覚症状を訴える状態。

    ※ 愁訴:我々が生活していて体調の不具合を自覚することがある。例えば、痛み、かゆみ、熱感、  冷感、荒れ、腫れ、湿疹、痙攣、しびれ、疲れ、倦怠などの不快感や違和感などを訴える体調の異常感。

4.調査結果及び考察

<1> 屈折異常や眼位異常(斜位)の保有者別に、代表的な不定愁訴症状のうちいずれか一つ以上の愁訴を有する人の比率を調査した結果を示している。

(代表的な不定愁訴

①肩こり・首筋こり、②頭痛・頭重、③腰痛、④体の痛み(筋肉痛、関節痛)、⑤体がだるい・疲れやすい、⑥眼の疲れ・眩しさ、⑦胃腸弱、⑧不眠・朝起きがつらい、⑨アレルギー、⑩イライラする・カーッとなる、⑪高血圧、⑫心臓弱、⑬低血圧

【代表的な不定愁訴を有する人の比率】

(屈折異常、斜位の組み合わせ別に)              調査対象者数 588人

(近視=近、遠視=遠、乱視=乱、斜位=斜と略する)※混合乱視は遠視に含む

  本文の図2より          

       39人中     4人  10    %

近+乱    90人中   42人  46.6 %

近+斜       45人中   40人  88.9 %

近+乱+斜  114人中 105人  92.1 %     近視系191人 / 288人 = 66.3%

        27人中    21人.  77.8 %

遠+乱      129人中 123人 95.4 %

遠+斜        19人中   19人.  100   %

遠+乱+斜      125人中 125人.  100   %      遠視系288人/300人=96%

全体      588人中 479人.  81.5. %      全体   479人/588人=81.5%


  調査人数全体(588人)中 、代表的な不定愁訴を一つ以上有する人の内訳

近視系の眼の保有者288人のうち66.3%の191人、

遠視系の眼の保有者300人のうち96%の288人、

全体588人のうち 81.5%の479人に何らかの不定愁訴が有る。

広く一般の人々を対象にしても約80%の人に何らかの不定愁訴があると推察される。

  純粋な近視では不定愁訴を有する人の比率は低い。

 (検定水準1%で有意)

従って「純粋な近視(乱視、斜位のない)は健康な体質である」という仮説が成り立つ。

  近視に乱視や斜位が加わると不定愁訴を有する人の比率は高くなる。

その比率は、(近視+乱視)より(近視+斜位)の方が高い。

 (検定水準1%で有意)

従って、乱視よりも斜位の方が健康により悪影響を与えると言える。

 遠視性についても同様な傾向にある。

  健康に悪影響を与える要素の順位は斜位、遠視、乱視の順となる傾向にある。

  不定愁訴を有する人の比率は、近視性より遠視性の方が高い。

 (検定水準1%で有意)

 表2から視力の良い人の比率は、近視性よりも遠視性の方が高い。

視力の良い遠視の方が健康上油断の出来ない眼であると言える。

 

<2> 表3は、屈折異常や斜位の度と不定愁訴を有する人の比率との関係を示すものである。データ量が十分ではないが傾向をさぐってみたい。

遠視、乱視、斜位のどれも度が強くなれば、不定愁訴を有する人の比率は高くなる。

近視性乱視C-0.75D以下では不定愁訴を有する人の比率は低い。しかし、遠視性乱視ではC+0.75D以下であってもその比率は非常に高い。

斜位P3△以下では不定愁訴のない人も少なくないが、それを超えるとほとんど有している。内斜位、上下斜位においてはその度が弱くてもほとんどの場合、不定愁訴を有している。

 

<3> 図3は、代表的不定愁訴別に、それを有する人の比率を示したものである。(調査人数588人中)これによると、

     四大不定愁訴は、肩こり・首筋こり、頭痛・頭重、腰痛、体の痛みである。

いずれも50%以上の人がその愁訴を有している。

  体がだるい、朝起きがつらい、イライラする(苛立ち)、カッとなりやすいなど、一般的には「心のもちよう」とみなされる愁訴が意外に多い。

 

【遠視、乱視、斜位を有する人の内、不定愁訴を有する人の比率】各愁訴とも調査人数は588人

  本文の図3より

肩こり・首筋こり                    67.8 %

頭痛・頭重                               62        %

腰痛                                        54.5 %

体の痛み(筋肉痛・関節痛)   51       %

体がだるい、疲れやすい         47       %

眼の疲れ、眩しさ                   45        %

胃腸弱                                     38.3 %

不眠、朝起きつらい                36.3 %

アレルギー                               25.5 %

イライラ、カッとなる             24.7 %

高血圧                                      19.8 %

心臓弱                                      12.2 %

低血圧                                          5.1 %  

 

<4> 図4~図16は、屈折異常や斜位の状態別に、各愁訴を有する人の比率を示したものである。

遠視、乱視、斜位のある人にその愁訴を有する人の比率が高い。

(検定水準1%、5%で有意) 従って、図3で示した愁訴の大部分は眼因性疲労であると考えられる。

眼が疲れる、眩しいなど眼そのものの愁訴も少なくないが、全身あらゆるところに愁訴が現れるのが特徴である。

イライラする(苛立ちを抑えられない)、カッとなる(頭に血が上る)など「心のもちよう」とか「性格」だと見なされやすい愁訴も大部分は眼因性疲労である。

 

<5>図4~図7の(%)内の数値は、眼鏡装用後に各愁訴が消滅或は大幅軽減した人の比率を示す。

既に「純粋な近視は健康な体質である」という仮説を設けたので、眼鏡補正においては屈折異常や斜位を意識的に純粋な近視と同じような状態にレンズで補正した。

( %)内の数値はその補正効果と言える。

 ①( %)内の数字を見れば各愁訴の大部分は、消滅或は大幅軽減をしている。

また、経験的には図8~図16の各愁訴も大部分が、眼鏡装用後に消滅或は大幅軽減をしている。

逆に眼鏡を取り外せば再び愁訴が生じて来るので、それが眼鏡の影響下にあることは明らかである。

従って「不定愁訴の大部分は眼因性疲労である」ことが証明された。

 ②「純粋な近視は健康な体質である」という仮説は証明された。

 ③「遠視、乱視、斜位は健康を害する要因である」ことが証明された。

 

 【肩こり、首筋こりの比率】(屈折異常、斜位別)

( % )内数値は、眼鏡装用後愁訴が大幅軽減した比率を示す

  本文の図4より

近        39人 2.6%      (1人)

近+乱     90人 37.8%   (34人)中  31人( 91.5% )

近+斜     45人 42.2%   (19人)中 17人( 89.6% )

近+乱+斜   114人 71%      (81人)中 77人( 95% )

遠      27人 37.1%   (10人)中   8人( 80% )

遠+乱    129人 90%    (116人)中 109人( 94% )

遠+斜      19人 84.2%   (16人)中 14人( 87.5% )

遠+乱+斜    125人 96.6%(121人)中117人( 96.8% )

全体       588人 67.8%(399人)中374人( 93.8% )

                        

 【頭痛の比率】(屈折異常、斜位別)

( %)内数値は、眼鏡装用後愁訴が大幅軽減した比率を示す

  本文の図5より

近         39人 0

近+乱      90人 33.3% (30人)中 27人(90.2%)

近+斜      45人 35.5% (16人)中 14人 (88%)

近+乱+斜 114人 63.1% (72人)中  68人 (94.5%)

遠                 27人 29.6%   (8人)中    7人 (88%)

遠+乱    129人 81.4%(105人)中  93人(88.5%)

遠+斜    19人 89.5% (17人)中  16人  (94.3%)

遠+乱+斜  125人 92.7%(116人)中 110人(95%)

全体     588人 62%   (364人)中 334人 (92%)


  【腰痛の比率】(屈折異常、斜位別)

( %)内数値は、眼鏡装用後愁訴が大幅軽減した比率を示す

  本文の図6より

近      39人 2.6%   (1人)

近乱     90人 11.1%(10人)中 7人  (70.2%)

近+斜   45人 37.8%(17人)中 14人(82.6%)

近+乱+斜 114人 55.2%(63人)中 41人(65.2%)

遠       27人 44.5%(12人)中  8人 (66.6%)

遠+乱     129人   70%(90人)中 70人 (77.5%)

遠+斜    19人 84.5%(16人)中 13人(81%)

遠+乱+斜 125人   88%(110人)中 84人    (76.4%)

全体    588人 54.5%(320人)中 237人(74.2%)

 

【体の痛み(筋肉痛、関節痛など)の比率】(屈折異常、斜位別) 

(%) 内数値は、眼鏡装用後愁訴が大幅軽減した比率を示す

  本文の図7より

近       39人   5.1%( 2人)

近+乱    90人 36.7%( 33人)中 27人(81%)

近+斜    45人 37.8%( 17人)中 14人(82.5%)

近+乱+斜  114人    50%( 57人)中 55人(96.5%)

遠        27人    14.8% ( 4人)中 2人  (50%)

遠+乱      129人 67.4%( 87人)中 71人(81.6%)

遠+斜     19人 79%   ( 15人)中 10人 (67%)

遠+乱+斜   125人 68%   ( 85人)中 76人(89.4%)

全体      588人 51% ( 300人)中 255人(85%)

 

【体がだるい、疲れやすいの比率】(屈折異常、斜位別)(屈折異常、斜位別)

       本文の図8より

近               39人         0%(0人)

近+乱         90人    33.3%(30人)       

近+斜         45人    44.5%(20人)

近+乱+斜  114人      49%(56人)

遠               27人      24.9%(7人)

遠+乱       129人     49.5%(64人)

遠+斜         19人     52.5%(10人)

遠+乱+斜  125人     71.2%(89人)

 

  【眼の疲れ、まぶしさの比率】 (屈折異常、斜位別)

      本文の図9より

近               39人           0%(0人)

近+乱         90人     27.8%(25人)

近+斜         45人     37.8%(17人)

近+乱+斜  114人     36.8%(42人)

遠               27人      44.5%(12人)

遠+乱        129人         65%(84人)

遠+斜          19人        47.3%(9人)

遠+乱+斜  125人          60%(75人)

 

  【胃弱の比率】(屈折異常、斜位別)

      本文の図10より

近              39人          0%(0人)

近+乱         90人     16.7%(15人)

近+斜         45人      35.5%(16人)

近+乱+斜  114人      41.2%(47人)

遠               27人      25.9%(7人)

遠+乱       129人       45% (58人)

遠+斜         19人       52.5%(10人)

遠+乱+斜  125人       57.5%(72人)

 

   【不眠、朝起きがつらいの比率】(屈折異常、斜位別)

       本文の図11より

近              39人          0%(0人)

近+乱         90人     11.1%(10人)

近+斜         45人        49%(22人)

近+乱+斜  114人     43.8%(50人)

遠               27人      11.1%(3人)

遠+乱        129人     41.9%(54人)

遠+斜         19人       26.3%(5人)

遠+乱+斜  125人         55%(69人)

 

 【アレルギーの比率】(屈折異常、斜位別)

 本文の図12より

近       39人          0%(  0人)

近+乱    90人       5.5%(  5人)

近+斜    45人     37.9%(17人)

近+乱+斜  114人       50% ( 57人)

遠        27人      0% (  0人)

遠+乱      129人    10.8%(14人)

遠+斜     19人     47.3%(  9人)

遠+乱+斜   125人     38.4%( 48人)

 

   【イライラする、かーっとなりやすいの比率】(屈折異常、斜位別)

      本文の図13より

近              39人          0%(0人)

近+乱         90人     16.7%(15人)

近+斜         45人     24.5%(11人)

近+乱+斜  114人     26.3%(30人)

遠               27人     18.5%(5人)

遠+乱       129人     29.4%(38人)

遠+斜         19人     26.3%(5人)

遠+乱+斜  125人     32.8%(41人)

 

  【高血圧の比率】(屈折異常、斜位別)

      本文の図14より

近              39人        0%  ( 0人)

近+乱         90人     5.5% ( 5人)

近+斜         45人     20%  ( 9人)

近+乱+斜  114人     17.5%( 20人)

遠               27人      18.5%( 5人)

遠+乱       129人     22.5%( 29人)

遠+斜         19人     47.3%( 9人)

遠+乱+斜  125人    31.1%( 39人)

 

  【心臓弱の比率】(屈折異常、斜位別)

      本文の図15より

近              39人      0%  (0人)

近+乱         90人      0%  (0人)

近+斜         45人   17.8%(8人)

近+乱+斜  114人   26.3%(30人)

遠               27人      0%  (0人)

遠+乱       129人      4%  (5人)

遠+斜         19人       0% (0人)

遠+乱+斜  125人    24%(30人)

 

  【低血圧の比率】(屈折異常、斜位別)

      本文の図16より

近               39人     0%(0人)

近+乱         90人     0%(0人)

近+斜         45人     0%(0人)

近+乱+斜  114人     7%(8人)

遠               27人     0%(0人)

遠+乱       129人   5.4%(7人)

遠+斜         19人     0%( 0人)

遠+乱+斜  125人  12%(15人)

 

<6> 図12は屈折異常や斜位保有別にアレルギーを有する人の比率を示している。これによると

 ①斜位のある人にアレルギーを訴える人の比率が高い。

 (検定水準1%で有意)


<7> ここで調査対象の588人とは別に、弱近視で視力は大して悪くなく、アレルギーのある33人について斜位を測定した結果を表4に示す。これらの人々については、斜位の補正(プリズム)のみでアレルギーは消滅するか大幅軽減をした。このことから

 ①「アレルギー体質の主原因は斜位である」と考えることが出来る。


<8> 日常業務の中で発見されたことであるが、次のような事実がある。

斜位がない場合で、「右眼が近視、左眼が遠視」の人がいるとする。

その人に眼因性疲労があるとすれば、痛みや凝りなどの症状が左半身の遠視側に強く生じる。

このように斜位がない場合、疲労症状は眼因性疲労の原因側の眼と同側の半身に生じるのである。

屈折異常の度合いと愁訴の強弱にも相関性が見られ、眼と健康の関係を経験的に把握する上で、重要な目安となった法則性である。

左右同程度の遠視眼の場合であれば乱視のある側に、左右共に遠視の場合にはより強い遠視側に調節負担の大きい側に集中する傾向がある。


<9> 老視による眼因性疲労

 加齢により調節力が低下する老視眼が、無理に近方視を続けると自律神経の疲れを招き、眼因性疲労の原因となる。

遠視と老視は調節性の疲労という括りで共通性があるが、40歳頃から始まる老視と時期を同じく始まる成人病や更年期障害等が眼因性疲労と全く別ものであるとは考えにくいのである。


5.結論

不定愁訴の総てが眼因性疲労とは言えないが、その大部分は眼因性疲労である。

そして眼と健康に関しては次の三つの法則性がある。

① 第一法則性

 純粋な近視状態の眼は健康な体質。

② 第二法則性

 眼因性疲労は屈折異常の「遠視」、「乱視」と調節異常の「老視」と眼位異常の「斜位」の四要素に起因している。

③ 第三法則性

 (一眼同側半身の規則性)一眼の屈折異常による眼因性疲労は同側半身に生じる。

(更に特記すべきこととして)

④ アレルギー体質主原因は斜位であると考えられる。

⑤ イライラする、カーッとなる、集中力が持続しないなどの「心のもちよう」、「性格」と見なされやすい愁訴も大部分の原因は眼因性疲労である。

⑥ 眼因性の疲労症状は比較的短時間のうちに効果を自覚できるものが多く、補正眼鏡を10分~15分間程度装用しているだけで、治癒効果を自覚できることがよくある。

これでお客様に眼鏡の効果を納得してもらえる事はしばしばである。

⑦ 片眼遮蔽の眼鏡、眼帯のみで効果が現れるのも決して珍しくない。

 

 

56 ⑥ 「予防医学への足がかり」Ⅲ 屈折異常や眼位異常と視力の関係

(Ⅲ) 屈折異常や眼位異常と視力の関係

 視力障害を起こす屈折異常は、近視、遠視、乱視である。

これらが視力障害を起こす三大要素である。

近視と近視性乱視はその近視の度合いが比較的弱度の段階から視力低下が見られ、近視度が増すに従い視力が急カーブで低下するけれど、遠視ではその度合いが弱い場合には必ずしも視力は低下しないで、遠視度が増すごとに比較的緩いカーブを描きながら視力が低下する傾向にある。(生理光学と眼鏡による治療・神谷、梶浦著 p90より)

これは、近視眼には遠方に焦点を合わせる調節の仕組みが備わっていないのに対し、遠視眼では眼の調節が働き、焦点の位置を網膜上に合わせる力(調節力)が働いているからと考えることが出来る。

特に若者の眼の調節力は豊富である。

遠視の度が比較的強くそれを補う調節力が十分に足りない場合や、老人は加齢のため調節力が不足している為に網膜上に焦点を近付けることが十分に出来ず視力の低下が生じる。

視力は近視系の眼では、近視度と近視性乱視度の組合せで決まり、遠視系では、遠視度と遠視性乱視度の組合せできまる。

 斜位は近視系、遠視系の別なく、それぞれの眼に独立して存在するものだが、ほとんど視力に影響しない。 このように一般的には良く知られていない眼と視力の関係がある。

   視力が良いと言うだけでは正常眼であるとは言えない。

「遠視は良い視力」、「斜位は正しく両眼視出来ている」、これが一般的な両者の姿である、即ち「潜伏して姿を表面に現さない」のである。

一般に良い視力の眼が正視と間違えられることがあるが、「正視」とは近視でも遠視でもない理想的な屈折状態の眼である。 理論上は存在するけれどほとんど実在しないのが実状である。

精密に検査するとほとんどの眼の屈折状態は、近視か遠視のいずれかに属すると言える。

同様に斜位も遠視同様に潜伏して姿を表面に現さないものであるが、唯一融像除去眼位を作為的に作ることで知ることが出来る。


 表2に屈折異常や斜位のいろいろな組み合せにおける  "視力の良い人" と、"視力の悪い人" の比率を示す。

これからわかるように、近視系の眼は遠方視力の悪い人が圧倒的に多く、逆に遠視では、遠方視力のよい人が多い。

眼因性疲労の実態については後述するけれど、視力の悪い近視が眼因性疲労を起こしにくく、視力の良い遠視が眼因性疲労を起こしやすい。

特記すべきことは、視力とは関係のない「斜位」もいろいろな疲労症状をもたらすことである。

視力を最も重視して、近視の予防とその眼鏡補正を強調する常識の盲点に「眼因性疲労」が存在する。

しかも、それは人類の80%に広く根を下ろしていると考えられるのである。

 

 

 

55 ⑤「予防医学への足がかり」Ⅱ 眼因性疲労と内的ストレス作因

(Ⅱ)眼因性疲労と内的ストレス作因

 "病気の根源"  を探索しようとする際よく引用されるものに、セリエの「ストレス学説」がある。

同学説では「ストレス」が病気の根源であると考えられている。

外部から加わるストレス即ち「外的作因」と言われるものに、物理的、化学的、生理的、精神的の各作因があげられる。

しかし、「ストレス学説」は、多くの学者の共鳴を得ているにも関わらず、人の実生活の上で証明する困難さがあげられている様である。

 人の身体を発生学的に垣間見れば、"生命の発生"  の初期に先ず「脳」と「眼」が出来るそうであり、眼は脳の一部とさえ言われる。脳と身体諸器官との関係の大きいことは既に医学の常識となっているが、眼と身体全体との関係に対して、眼鏡店の日常業務の中で注意を払っていると「眼光学」と「医学」の接点で、首をかしげたくなる事実にしばしば直面したのである。

 例えば"ムチウチ症"と言われる病気は車の事故で誘発される頸部の病気である。

また、"ハウス病"と言われている病気は温室内(温室栽培のビニールハウス)の高温度と多湿度がもたらす病気である。ところが、ムチウチ症やハウス病の苦痛を訴える人の眼を測定すると、視機能に異常のある場合が多く、それを眼鏡で適当に光学補正をすれば愁訴が消滅することがある。

このように原因とは全く無関係と思われる眼への眼鏡補正によって愁訴が消滅する事実から、眼に病気の根源が秘められているのではないかと考えざるを得ない。

不定愁訴」が眼と大きな関係のある事は後で詳述するが、例えば次のような「外的作因」をもつ愁訴も眼因性疲労に結び付くものと思われる。

○  車の事故による慢性神経痛(ムチウチ症)

○  過度な労働による、腰痛、神経痛

○  温室の高温、高湿による頭痛、めまい、吐き気

○  低気圧による頭重、偏頭痛、イライラ

○  精神不安から起こる不眠、頭痛

○  乗り物酔い(嘔吐)

○  食物によるジンマシン

○  ブタクサの花粉による咳

○  結核菌の感染による肺結核

○  運動選手の筋肉痛、アキレス腱痛

○  何らかの引き金で起こる神経痛

○  髭剃り後に発生する口端や顎の湿疹

○  暑さによる夏バテ

○  暖房、冷房による頭痛、悪感

 以上のように外的作因で起きる愁訴の数々は、いずれも眼因性疲労との関係があるものが多いようである。(一過性の愁訴で慢性化していないものは別とする)


○  水虫、田虫、ニキビ、吹き出もの

○  シミ、ソバカス、魚の目、いぼ

○  足の裏の皮が固くなるもの、化膿性疾患

○  手足の痺れ、痙攣、神経痛、蓄膿

○  便秘、わきが、口臭、口内炎、歯が浮く

○  頭痛、めまい、肩こり、腰痛、かゆみ

 以上のようにこれといった原因も見当たらず自然に発生して来る愁訴もある。

 「外的作因」の比較的はっきりしている愁訴について考えてみれば、

愁訴を有する  "特定の人" のみがその外的作因を被る訳ではない。

現代生活の中で結核菌を吸わぬ環境は考えられず、青魚は誰でも食べている、ブタクサの花粉は我々の身辺にもあるし、精神不安のない人はまずいまい、低気圧は否応なく頭上から覆い被せられる気象現象である。それらの外的作因が人の身体に与えられたとき、必ずしも総ての人に愁訴症状が起きるとは限らない。同一の外的作因に対して  "何の愁訴も生じない人"、"何らかの愁訴が生じる人"  のある事に気づくのである。

更に  "半身のみに愁訴の出る人" や  "左右両方に出る人" も認められる。

そうすると「外的作因に耐えうる体質」、「外的作因に耐えられない体質」、「半身は耐えうるが他方半身は耐えられぬ体質」があるようである。

そうすると、体質は何で決定されるのかという問題点に焦点が絞られて来るのである。(眼と健康の法則性、一眼同側半身の法則性は後述する)

 原因がはっきりしている外因作因のみで病気に発展することもあろうが、それが引き金となることもあろう。

病気を誘発する母体は自律神経の平衡失調であり、それを引き起こす作因が体内にあるとすれば、その一つは眼であろうと推測できる。

『病気は外的作因がなくても、眼因性疲労(セリエ的にいえば、内的ストレス作因)のみでも発生する』と思われ、先に示した原因のはっきりしない愁訴(水虫、その他)は実は眼因性疲労の場合が多い。

 セリエの「ストレス学説」におけるストレス作因で見落とされた  "眼からのストレス作因" を私達は「内的ストレス」(体質を決定する作因)と呼びたい。

外的作因のみで起きる病気や愁訴は、その作因を取り除けばホメオスタシス(恒常性)に助けられ、限られた日数を経れば自然回復する性質のものと考えられる。

これは一過性の病気として済むことが多いのではないだろうか。

一方、外的作因を取り除いても慢性化していく病気には病気の発育をうながす土壌(体質)がある。

病気は土壌に根を下ろして成長することになる。

その土壌を作るのが「眼」ではないかとする仮説を立てて、その仮説を事実に基づいて解説を試みるのが今回の目的である。

 

 

 

 

54 ④ 「予防医学への足がかり」Ⅰ 眼因性疲労

( Ⅰ )眼因性疲労

 原因が漠然とした症状に不定愁訴とか「病気でない病気」と呼ばれているものがある。

頭痛、肩こり、腰痛、嘔吐、眼の疲れ、貧血など、それらの症状は数え上げればきりがない。

このように、具体的には病態がはっきり表現されているが、その原因が漠然としていることから前述のような呼び名で一括されている。

 一方「眼精疲労」と呼ばれるものがある。

眼精疲労とは、前述の「不定愁訴」や「病気でない病気」と同じような症状を訴えるものである。

「眼精疲労」の原因は、主に精神的なものであるとされているが(眼科学、仁田正雄著、文光堂より)、視機能に関係する「調節異常」や「眼筋異常」もその一原因とされている。

すなわち、遠視、乱視、老視、斜位など、眼に屈折異常や調節異常、眼位異常があれば身体に悪影響を与え、前述の症状が発生すると言われている、即ち調節性眼精疲労や眼筋性眼精疲労のことである。

ところが、眼精疲労を起こすと考えられている遠視や斜位の眼の人が同じ職場環境で仕事をしているにも関わらず、疲労を訴える者と訴えない者が居る事などから、眼精疲労は精神的なものが関係しているという漠然とした定説のなか、視機能が引き起こしている疲労か、精神的なものが原因しているものかの確認をしないまま、つまり必要な眼鏡処方をすることもなくなおざりにしていると見える。

その結果、視機能が原因の真の眼精疲労さえ、原因不明の広義の不定愁訴などの範疇に含まれてしまっているようである。

「真の眼精疲労症状か否かを確認するためには患者に眼鏡を装用させて確かめる以外に方法がない」のである。

明らかな屈折異常の遠視の人に対しても、患者側から視力不良の訴えがないかぎり眼鏡装用を勧める事も少なく、眼精疲労症状の有無を患者に問診し確認をすることもない、これが一般的な眼科の対応のようである。  従って、これらの眼精疲労患者は具体的な眼科的処置もなされないまま放置され、心療内科など別の診療科へ送られていたりすることも珍しくはあるまい。

眼精疲労は有名無実であると言っても過言ではない。

 同じ症状が眼科以外の診療科では、「不定愁訴」、「病気でない病気」、「神経症」、「更年期障害」など様々な呼び名になる場合も決して少なくない。

例えば、頭痛、肩こり、腰痛、不眠、めまいなどがそうである。

ある種のものでは "加齢のせい" 、"原因不明"  または "精神的なもの" と言われる。

唯一、これらの愁訴や症状に対する "原因" を かなり具体的に指し示しているのが眼精疲労である。

具体的な原因があるからには、その原因への眼鏡によるアプローチがなされ、既にその臨床研究成果がなければならない。

原因の一つの「斜位」や「遠視等の調節異常」については眼精疲労の立場からは何故か今まで深く研究されたことがないという医学上の盲点がある。

 治療医学と薬学が車の両輪の如くであるように、眼精疲労に対しては、"眼科学と眼鏡学"  が車の両輪の如くでなければ、その本格的な治療体制は成就しない。


 私達の調査によれば、不定愁訴などの愁訴症候群を有する人の大部分には、眼精疲労の原因となり得る眼の"屈折異常"や"眼位異常"がある」と言う結論が得られたのである。

 勿論この結果を得るには、それ以前にそれを解明するための「鍵」を探さねばならなかった。

「眼精疲労」の問題を解く鍵が「不定愁訴」の合鍵となることがわかった。

その鍵とは、「眼と健康に関する三つの法則性」である。

 その「法則性」に従って眼鏡補正を行うことさえできれば、その生理光学的処置の結果として不定愁訴が消滅するか非常な軽減を見ることが判明した。

その事実は  "法則性を立証する"  根拠ともなるのである。

この事実は現在の眼精疲労に関する「定説」とは大きく異なるものである、すなわち、定説では眼精疲労の主原因を精神的なもの(ものがはっきり見えない焦燥感なども含む)とみなし、調節異常や眼位異常もその  "一原因" であると見なされている。眼精疲労の「精」は「精神」を意味するものと思われる。

 しかし、私達の調査のかぎりでは、近視で視力の良くない人には不定愁訴が少なく、遠視など視力の良い人に不定愁訴が多いことが判明し、「見えないことへの焦燥感」といった精神的な原因との相関性は見出すことが出来なかった。

 以上のことから純粋な近視を除く屈折異常や眼位異常は「眼精疲労」、「不定愁訴」、「病気でない病気」などの主原因であると見なすことが出来る。

 眼は自律神経の支配下にありながら、同時に"自律神経系"に影響を与え、身体の各器官に大きな影響力をもつと考えられるのである。

 ここに従来の「定説」と異なった事実に基づき、眼の屈折異常や眼位異常から生じる全身各部の疲労を「眼因性疲労」と呼ぶことにする。

 

 

 

 

 

 

53 「予防医学への足がかり、眼因性疲労の研究」目次

    目 次

Ⅰ・眼因性疲労(54)

Ⅱ・眼因性疲労と内的ストレス作因(55)

Ⅲ・屈折異常や眼位異常と視力の関係(56)

Ⅳ・調査報告:屈折異常や斜位と健康との関係(57)

 1.調査の目的

 2.調査の対象

 3.調査の方法

 4.調査結果及び考察

 5.結論

Ⅴ・眼因性疲労に関する簡単な生理学的考察(58)

 1.眼と自律神経

 2.「内的ストレス作因」と体質

 3.予防医学の原点

Ⅵ・眼や眼鏡に関する常識の矛盾と盲点(59)

 1.幻の眼精疲労

 2.視力の良い遠視に関する矛盾点

 3.乱視補正の矛盾点

 4.斜位に関する矛盾点と誤解

 (1)瞳孔中心間距離とレンズ光学中心間距離に関して

 (2)外斜位と内斜位に関して

 5.「正しい眼鏡」の評価基準がない

Ⅶ・正しい眼鏡とその評価基準(60)(61)

Ⅷ・現代医学のわすれもの(62)

 1.第三水俣病判決について

 2.「病気は眼に出る」は一方通行か

Ⅸ・これからの課題(63)

 1.眼鏡技術者の教育

 2.眼鏡作成後のフォローアップ

 3.眼鏡のみでは解決できない眼因性疲労

    おわりに